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福岡高等裁判所 昭和62年(ネ)241号 判決

一審原告 中島九州男

一審原告 横田重信

右両名訴訟代理人弁護士 津田聰夫

同 林健一郎

同 井手豊継

同 諫山博

同 小泉幸雄

同 小島肇

同 内田省司

同 椛島敏雄

同 林田賢一

同 宮原貞喜

同 田中久敏

一審被告 あけぼのタクシー有限会社

右代表者代表取締役 三島隆二郎

右訴訟代理人弁護士 苑田美穀

同 山口定男

同 立川康彦

同 古川卓次

主文

一  一審原告両名の本件控訴に基づき、原判決中一審原告両名の一時金請求を棄却した部分を次のとおり変更する。

二  一審被告は、一審原告中島九州男に対し金七万七五六四円を、一審原告横田重信に対し金七万五三八〇円を、各支払え。

三  一審原告両名のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一審、差戻前の控訴審、上告審(上告棄却部分の上告費用を除く。)、差戻後の控訴審を通じて、これを一〇分し、その一を一審原告両名の、その余を一審被告の、各負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  一審原告両名

1  原判決中一審原告両名の一時金請求を棄却した部分を取消す。

2  一審被告は、一審原告中島九州男に対し金六二万六四七七円を、一審原告横田重信に対し金六三万三八六九円を、各支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  一審被告

1  一審原告両名の本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は一審原告両名の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因(一審原告両名)

1  一審被告(以下「被告」という。)は、旅客運送事業を営む会社であり、一審原告両名(以下「原告両名」といい、個別にいうときは「原告中島」、「原告横田」という。)は、被告にタクシー乗務員として雇用されていた者である。

2  被告は原告両名に対し、昭和五一年八月二一日、原告両名をいずれも懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。

3  しかし、本件上告審判決(最高裁昭和五九年(オ)第八四号同六二年四月二日第一小法廷判決)により、本件解雇は無効であることが確定した。

4  原告両名は、昭和五三年三月一四日、被告の許へ職場復帰した。

5  本件解雇期間中、原告両名が被告から、賃金のほかに支払を受けるべきであった一時金は以下のとおりである。

(一) 原告両名が支払を受けるべき一時金は被告における賃金協定の標準支給額によるのが相当であり、それによると、原告中島が六二万六四七七円、原告横田が六三万三八六九円であるが、その内訳は以下のとおりである。

(1) 昭和五一年度冬期一時金

同年度の賃金協定による同年度の一時金は、平均月間運収三〇万円を標準として年間三五万円で、そのうち冬期分が五五パーセント、その支給日は同年一二月一〇日である。したがって、原告両名が被告から支払を受けるべき標記一時金は、各一九万二五〇〇円である。

(2) 昭和五二年度夏期、冬期一時金

同年度の賃金協定による同年度夏期一時金は、平均月間運収三〇万円を標準として年間三七万円の四五パーセントで、その支給日は同年八月五日であり、同年度冬期一時金は、平均月間運収三四万円を標準として年間三七万円の五五パーセントで、その支給日は同年一二月二〇日である。したがって、原告両名が被告から支払を受けるべき標記一時金合計は、各三七万円である。

(3) 昭和五三年度夏期一時金

右一時金は、昭和五二年一二月一日から同五三年五月三一日までの労務に対し支払われるものであるが、被告の許へ職場復帰した同年三月一四日から同年五月三一日まで七九日間の就労に対する夏期一時金として、被告から、原告中島は四万九〇七〇円、原告横田は五万四七四〇円の各支給を受けた。そこで、本件解雇期間中の同五二年一二月一日から同五三年三月一三日(復職日前日)まで一〇三日間の期間に対応する分として、原告両名が被告から支払を受けるべき金額を、右受領額の算定の基礎となった日数との割合により計算すると、原告中島は六万三九七七円、原告横田は七万一三六九円となる。

(二) 仮に、右(一)の(1)、(2)の主張が認められないとしても、昭和五〇年度冬期一時金として、被告から、原告中島は一五万四二八五円、原告横田は一四万九九四一円の、同五一年度夏期一時金として、原告中島は一五万〇一四五円、原告横田は一四万七四一四円の各支給を受けたから、原告両名は同五一年度冬期、同五二年度夏期、冬期の各一時金についても、冬期分は右五〇年度の、夏期分は右五一年度の各実績を下回らない金額の支払を受け得たはずである。これに基づき、被告から支払を受けるべき同五一年度冬期、同五二年度夏期、冬期の各一時金を合計すると、原告中島が四五万八七一五円、原告横田が四四万七二九六円となる。

(三) 仮に、本件上告審判決のいうとおり、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち、平均賃金額の六割を超える部分から、当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することができ、右利益の額が平均賃金の四割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法一二条四項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することができるとしても、原告両名は被告から、以下のとおりの一時金の支払を受けることができる。

(1) 昭和五一年度冬期一時金

被告における右一時金の計算期間は、昭和五一年六月一日から同年一一月三〇日までの一八三日間であるが、このうち、原告両名が訴外博多タクシー有限会社(以下「博多タクシー」という。)に就職した同年九月一日から右計算期間の最終日である同年一一月三〇日までの九一日間が、中間利益の控除可能な期間に対応するものであり、したがって、これに対応しない期間が、右計算期間の初日である同年六月一日から右就職日の前日である同年八月三一日までの九二日間である。そこで、原告両名が実際に支給を受けた前記(二)の昭和五〇年度冬期一時金を基に計算すれば、なお、被告に、原告中島は七万七五六四円、原告横田は七万五三八〇円の各支払を請求できるものである。

(2) 昭和五三年度夏期一時金

被告における右一時金の計算期間は、昭和五二年一二月一日から同五三年五月三一日までの一八二日間であるが、右計算期間の初日である同五二年一二月一日から、原告両名の博多タクシー退職日の同五三年二月一〇日までの七二日間が、中間利益の控除可能な期間に対応するものであり、したがって、これに対応しない期間が、右退職日の翌日たる同年二月一一日から、被告の許に復職した日の前日の同年三月一三日までの三一日間となるから、前記(一)の(3)の支払を受けるべき昭和五三年度夏期一時金を基に計算すれば、なお被告に、原告中島は一万九二五五円、原告横田は二万一四七九円の各支払を請求できるものである。

6  よって、被告に対し、前項の一時金として、原告中島は合計六二万六四七七円、原告横田は六三万三八六九円の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告)

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2(一)  同5の(一)の事実のうち、昭和五一年度冬期、同五二年度夏期及び冬期の各一時金の各支払基準及び同五三年度夏期一時金として原告両名がその主張の各金員を受領したことは認めるが、原告両名が被告になお請求し得べき各一時金を有することを争う。

(二) 同5の(二)の事実のうち、昭和五〇年度冬期及び同五一年度夏期の各一時金として原告両名がその主張の金額を受領したことは認めるが、原告両名が被告になお請求し得べき各一時金を有することを争う。

(三) 同5の(三)の主張を争う。

原告両名は、本件上告審判決の趣旨を誤解している。ちなみにいえば、昭和五一年度冬期一時金は同年六月一日から同年一一月三〇日までの就労を対象として支払われるのであるところ、同判決によれば、この期間内に原告両名に中間利益があれば、一時金の計算期間全体につき、利益発生期間と賃金支給対象期間とが時期的に対応しているものと解されるのであるから、原告両名主張のように、中間利益を得た期間(博多タクシー就労期間)とそうでない期間とに分け、日割計算上、後者に対応する一時金部分につき、なお被告から支払を受けられるとするのは間違いである。

三  抗弁(被告)

原告両名は、本件解雇後の昭和五一年九月一日から同五三年二月一〇日まで博多タクシーに就職し、それぞれ月額一四万四〇〇〇円以上(右期間合計二二一万一四二八円以上)の賃金を、また、同五三年度夏期一時金として、原告両名の自認するもののほか、被告から原告中島が九万二八九〇円、原告横田が一〇万七四五〇円の各支給を受けている。従って、原告中島については右合計二三〇万四三一八円が、原告横田については右合計二三一万八八七四円が、原告両名の本訴請求より控除されるべきである。

四  抗弁に対する認否(原告両名)

抗弁事実のうち、昭和五三年度夏期一時金として、原告両名が被告主張の金額を受領したことは認めるが、その主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1ないし4の事実はいずれも当事者間に争いがないので、原告両名の一時金請求及び損益相殺に関する被告の主張につき検討する。

二1  右当事者間に争いのない事実によれば、原告両名は、なお被告と雇用関係にあり、本件解雇後昭和五三年三月一三日までの間、原告両名が被告の許で就労しなかったのは、法的に無効であった本件解雇によるものであるから、原告両名は被告に対し、右不就労の期間中の賃金及び一時金請求権を有するものというべきである。

2  右のように、使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益を得たときは、使用者は、右労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり右利益(以下「中間利益」という。)の額を賃金額から控除することができるが、右賃金額のうち労働基準法一二条一項所定の平均賃金の六割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六頁参照)。したがって、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の六割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、右利益の額が平均賃金の額の四割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法一二条四項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許され、そして、右のとおり、賃金から控除し得る中間利益は、その利益の発生した期間が右賃金の支給の対象となる期間と時期的に対応するものであることを要し、ある期間を対象として支給される賃金からそれとは時期的に異なる期間内に得た利益を控除することは許されないものと解すべきである(本件上告審判決参照)。

三  そこで、原告両名の一時金請求について検討するに、その主張の一時金は、いずれも三か月を超える期間ごとに支払われる賃金であって、労働基準法一二条四項により平均賃金の算定の基礎に算入されないものであるから、その全額を対象として中間利益の額を控除することが許されるものである。

1  昭和五一年度冬期、同五二年度夏期、冬期の各一時金

原告両名は、一次的に、請求原因5(一)の(1)、(2)のとおり主張し、右各一時金の支払基準については当事者間に争いがなく、これによって計算した一時金の総額は原告両名主張のとおりと認められる。しかし、《証拠省略》によれば、原告両名が仮に被告の許でタクシー運転手として稼働していたとしても、その平均月間運収は三〇万円に達しなかったものと推認されるのであり、そのような従業員に対する一時金の支給額がいくらになるかは《証拠省略》のみによっては明らかではなく、他に原告両名がその主張の額の一時金の支給を得られたものと認めるに足りる証拠がないから、右一次的主張は理由がない。

次に、原告両名は、二次的に、請求原因5の(二)のとおり主張するところ、被告から、本件解雇前の昭和五〇年度冬期一時金として、原告中島が一五万四二八五円、原告横田が一四万九九四一円の、同五一年度夏期一時金として、原告中島が一五万〇一四五円、原告横田が一四万七四一四円の各支給を受けたことは、当事者間に争いがないから、反証のない本件では、原告両名は本件解雇期間中の同五一年度の冬期及び同五二年度の夏期、冬期の各一時金として、被告から、本件解雇前の右各一時金を下回らない額、すなわち、冬期分については右昭和五〇年度冬期一時金、夏期分については右昭和五一年度夏期一時金とそれぞれ同額の支給を得られたものと推認するのが相当である。

2  昭和五三年度夏期一時金

右一時金として、被告から、原告中島が四万九〇七〇円の、原告横田が五万四七四〇円の各支給を受けたことは当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によれば、被告における夏期一時金の計算期間は前年一二月一日から当年五月三一日まで(昭和五三年度で計算すると一八二日間となる。)であり、被告から実際に支給を受けた右一時金は、原告両名が被告の許へ復職した昭和五三年三月一四日から、被告における同年度夏期一時金の計算期間の最終日である同年五月三一日までの七九日間の就労に対するものと認められることに徴すれば、同年度夏期一時金は、実際に支給を受けた右金員のほか、昭和五二年一二月一日から復職日前日の同五三年三月一三日までの一〇三日間に応じた額が加算して、被告から支給されるべきであったものと推認するのが相当である。そして、右加算さるべき一時金の額を、実際に支給を受けた右額を基にして計算すると、原告中島が六万三九七七円(計算式は、四九〇七〇÷七九×一〇三=六三九七七となる。円未満切り捨て、以下同じ。)、原告横田が七万一三六九円(計算式は、五四七四〇÷七九×一〇三=七一三六九となる。)の支給を得られたはずである。

3  ところで、弁論の全趣旨によれば、被告における冬期一時金の計算期間は当年六月一日から一一月三〇日までの一八三日間であると認められるところ、本件上告審判決によれば、中間利益の控除の対象とされるべき賃金は、その支給対象となる期間が、当該中間利益を生み出した就労期間と時期的に対応していなければならず、それに対応しない期間の賃金部分から中間利益を控除することは許されないから、昭和五一年度冬期一時金として原告両名が被告から支払を受け得たはずの金員のうち、本件解雇前の期間及び解雇後被告の許で労働しえず、かつ、博多タクシーにも就労していなかった期間の労働に対する分、すなわち、本件解雇前の同年六月一日から博多タクシーへの就職日前日の同年八月三一日までの九二日間の分は、中間利益の発生した期間と対応せず、したがって、これを控除の対象とすることのできないものというべきである(本件の場合、博多タクシーから得ていた中間利益の平均額が被告から受けるべき本件解雇期間中の平均賃金額の四割を超えていたため、被告から支払を受け得たはずの右冬期一時金のうち、中間利益の発生期間に対応する博多タクシーに就労中の同年九月一日から冬期一時金の計算期間の最終日である同年一一月三〇日まで九一日間の分については、その金額が右中間利益によって控除されても止むを得ないことは、前記二の2の説示を前提とする限り、原告両名も敢えて争わないところである。)。そこで、なお被告に請求し得べき昭和五一年度冬期一時金を前記1認定の一時金を基にして計算すると、原告中島が七万七五六四円(計算式は、一五四二八五÷一八三×九二=七七五六四となる。)、原告横田が七万五三八〇円(計算式は、一四九九四一÷一八三×九二=七五三八〇となる。)となる。

4  同様にして、昭和五三年度夏期一時金として原告両名が被告から加算した支払を受け得たはずであった金員のうち、被告の許で労働しえず、かつ、博多タクシーにも就労していなかった期間の労働に対する分、すなわち、博多タクシー退職日の翌日である同年二月一一日から被告の許への復職日前日の同年三月一三日までの三一日間の分は、原告両名が中間利益を得ることの出来なかった期間であるから、中間利益控除の対象とすることのできないものといわなければならない(本件の場合も、博多タクシーから得ていた中間利益の平均額が被告から受けるべき本件解雇期間中の平均賃金額の四割を超えていたため、被告から支払を受け得たはずの右夏期一時金のうち、中間利益の発生期間に対応する博多タクシーに就労中の同五二年一二月一日から右退職日の同五三年二月一〇日までの七二日間の分については、その全額が右中間利益によって控除されても止むを得ないことは、前記二の2の説示を前提とする限り、原告両名も敢えて争わないところである。)。したがって、なお被告に請求し得べき昭和五三年度夏期一時金を、原告両名が被告から加算されるべき前記2認定の一時金を基にして計算すると、原告中島が一万九二五五円(計算式は、六三九七七÷一〇三×三一=一九二五五となる。)、原告横田が二万一四七九円(計算式は、七一三六九÷一〇三×三一=二一四七九となる。)となる。

ところで、抗弁事実中、昭和五三年度夏期一時金として、原告両名の自認するもののほか、さらに、被告から、原告中島が九万二八九〇円、原告横田が一〇万七四五〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、結局右一時金に関する限り、すべて弁済ずみということになる。

5  次に、弁論の全趣旨によれば(本件の場合も、博多タクシーから得ていた中間利益の平均額が被告から支払を受けるべき本件解雇期間中の平均賃金額の四割を超えていたため)、被告から支払を受けるべき昭和五二年度夏期、冬期の各一時金については、その全額が中間利益によって控除されるべきことについては、前記二の2の説示を前提とする限り、原告両名も敢えて争わない趣旨と解される。

6  以上によれば、中間利益を控除した後、なお被告に対して請求できる一時金の額は、前記3で認めた昭和五一年度冬期一時金として、原告中島が七万七五六四円、原告横田が七万五三八〇円のみとなるから、原告両名の本訴請求は、被告に対し、右金員の各支払を求める限度で理由があるものとしてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきである。

四  よって、原告両名の本件控訴に基づき、原判決中、右と異なり原告両名の一時金請求をすべて棄却した部分を、右の趣旨に従って変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田延雄 裁判官 佐藤安弘 簑田孝行)

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